学 習 資 料
学習資料・掲載内容
@差別身元調査事件が問いかけるもの
A『差別を知る〜人権が基本の社会』 労働組合向けパンフレット
B部落解放運動の広がりと人権擁護運動
差別身元調査事件が問いかけるもの
1998年6月、大阪にある鞄本アイビー社とその子会社であるリック鰍ェ、企業から身元調査の依頼を受け、就職希望者が被差別部落出身かどうかなど、差別身元調査をおこなっていたことが発覚しました。これらの調査会社は、そのほかにも家族の職業などの状況、民族、思想、宗教、組合活動、支持政党など、就職差別につながる事柄を調査していました。
調査のやり方を見てみると、アイビー社が依頼を受けて実際はリック社が調査をおこなっており、依頼企業からFAXで送られてきた履歴書に基づき調査をしていました。調査は、聞き込みによる人物評、思想、前職の勤務状況、家族の生活や思想などがメインで、これらを総合的に評価するためにABCDのランク付けがおこなわれていました。
具体例を紹介すると、部落解放同盟で入手した履歴書のコピーには、「解放会館のとなり」「町の皮屋」などと書き込まれ、部落出身であることがわかると「※」印がつけられ、「調査不能」という言い方で企業に報告されていました。また、聖教新聞を購読していることがメモしてある履歴書もあり、「父親が労働組合の幹部で組合専従」とメモしてある例では最低のD評価がなされていました。
アイビー社の会員企業は約1400社あり、そのうち採用時に身元調査を依頼した企業は665社ありました。このような差別調査がなされ、就職差別がおこなわれることは絶対に許すことはできません。
履歴書のコピーをほかの人に渡すこと自体もプライバシーの侵害です。労働省は、差別の無い公正な採用選考システムの確立を企業に呼びかけ、統一応募用紙の使用などを働きかけてきましたが、就職差別を禁止する法律が無いため、啓発のみに終わっており、確信犯には対応ができない現状があります。また、このような悪質な調査会社についても取り締まる国の制度はありませんし、大阪府の「興信所・探偵社規制条例」があるだけです。24年前にも「部落地名総鑑」差別事件が大きな社会問題になりましたが、それをふまえて「企業内同和研修推進員」の設置が行政指導されるにとどまりました。しかし今回の事件が発覚しました。この事件は氷山の一角と考えられ、法整備も
含め強力な対策が必要なことが明らかです。
パンフレット『差別を知る〜人権が基本の社会』
部落解放中央共闘会議発行 1997年6月発行
はじめに
「日本にはもう差別なんかありませんよ」とか「日本の社会はみんな平等ですよ」といったことをよく聞きませんか?
しかし、本当にそうでしょうか?
「差別をなくそう」や「人権を守ろう」と一概に言いますが、あなたは差別や人権について何か感じたり、考えた事はありますか?
もう一度あなたのまわりを見渡してみましょう。日常の中で,あなたの何気ない言葉や行動が人の心を傷つけている事はないでしょうか。また、あなた自身が「これは差別だ。人権侵害だ」と感じたことはないでしょうか。
ここにあげている事例は私たちの社会の中でいくつも起きている現実なのです。 あらゆる差別に対して目を開き、立ち向かわない限り、知らず知らずのうちに、人間としての豊かな心を失い、相手の心を傷つけていく事になるのです。
1、差別の実態
〜今こういう問題がおきている〜
なぜ、生まれた場所で
「なぜ、どこがいけないの!」悦子(25歳)は博司(26歳)からの電話を受け、つい大きな声が出てしまった。
悦子と博司は3年の交際が実り、結婚の約束を交わし、お互いの両親にも会い、結婚式の日取りを決めるまでにこぎつけていた。
そうしたある日の晩に博司から電話がかかってきた。博司は「実はトラブルがあって、父が君の身元調査をして、君の家は部落の出身じゃないかと言うんだ。それで・・・・」
悦子は一瞬、博司が何を言っているのか分からなかった。悦子はその夜、博司から言われた事を母親に告げた。母親は「いずれ分かる事だとは思っていたけど」と答えたきりだった。
悦子には母親の思いも、博司の親の言っている事も理解のできない事だった。
翌日、悦子は「博司さん、私が部落出身者だったら何かいけない事でもあるの」悦子は努めて冷静に聞き返した。博司は「僕は何とも思っていない」
悦子と博司はその後何回か話をしたが、博司は「父が強行に反対していて、父は古い考え方に凝り固まっていて………」と元気なく言った。
悦子は「私がお父さんに会うわ、会って私たちで話をすれば分かるわ」と博司に言うと博司は困ったように「会ってくれそうもないよ」
悦子は「お父さんが反対したら私たちは結婚できないわけ?」と興奮したように問い詰めた。博司は「できれば皆に祝福してほしいし・・・」
悦子は博司の父に会えないまま何週間か過ぎ、煮え切らない博司との間で同じやり取りを繰り返していた。「このままじゃ私たち駄目になるわ・・・・」
なぜ、困っているの
あなたは駅の券売機の前で困ったような顔をしているお年寄りを見た事がありませんか? 理由はいろいろあります。遠いところが良く見えないとか、あまり一人で電車に乗った事がないのでよく分からないとか・・。
多くの人が忘れている理由がもう一つあります。文字が読めないのです。まさかと思うでしょう。文部省は日本には非識字者は一人もいないと公式にいっているからです。しかし本当でしょうか?60歳以上のお年寄、特に女性は子守や家業の手伝い、「女に学問はいらない」という偏見、そして何よりも貧しさの中で、小学校にもなかなか行けなかった現実があります。また、部落差別によって教育の機会を奪われてきた人々がいます。
それだけではなく、かつて日本がアジアで植民地支配をしていたときに、強制的に日本につれてこられた人々……。
貧しさと侵略の歴史の中で必死で生き抜いてきた人々……。そうした人達の中には今でも文字が読めず、読めても書けない状態に置かれている人が数多くいるのです。
このような人々の視点から社会を見直すことなしに、強い立場の人だけにあわせた社会が本当に豊かな社会といえるでしょうか。
なぜ、女性にだけ聞くの
「そんなことが何故差別なんですか。」某企業人事部長は驚いたように
ハローワークの担当者に向かって叫んだ。
「わが社に採用するというのに、素行の悪い女や、会社で問題を起こすようなものを採用できるわけが無いでしょう。あなただって自分のうちの
嫁にそんな女性を入れますか。どの企業でもやっていることです。」
この人事部長は採用試験にあたり、女性の応募者に対し、恋人の有無、これまでの異性との交遊関係、社内結婚を認めない、結婚後の退職が慣行となっていること等について、面接の際に執拗に質問したという。
応募した女性は、あまりにもひどいと紹介されたハローワークの担当者に訴えた。
本来、企業の採用は労働者と企業との労働契約であり、企業はその労働者の職務上の能力、技能について確認し、労働契約を結ぶもので
仕事に対する適性や能力に関係の無いことを聞かれる必要はなく、ましてや労働者個々人の考え方、生活について介入することは許されませんし、問われる筋合いもありません。
しかし、もっと問題といえるのは、企業の人事部長、人事担当者がそのことを理解していないことですが、判っていて敢えて行っているとした
ら事態はもっと深刻といえます。
なぜ、採用されないの
Kさん(18歳)は在日韓国人。しかし、在日の韓国、朝鮮籍の多くの人がしているようにKさんも通称の日本名を使用している。
日本では、在日韓国・朝鮮人の多くが本来の自らの名前を使って暮らすことが難しい。その意味を日本人は判ろうとしていない。
Kさんは、友達との旅行代金を稼ぐためにアルバイトをすることにした。求人誌でレンタルビデオの店を捜し、面接に出掛けた。Kさんは面接の際に自分が在日韓国人であることを明らかにし、若い店長は「明日から来てください」と告げた。
その夜、店長から電話がかかり、「すまないが、採用出来なくなった。社長が採用するなといっているので、申し訳ないが無かったことにしてくれ」と力なく言い、Kさんは「納得出来ません。どうしてですか」と問い詰めると、店長は「社長は『お客様商売だし、向こうの人間は好かん』と言うん
でね。わかってくださいよ。」と言いつつ、一方的に電話を切ってしまった。
Kさんの怒りはおさまらなかった。「私のどこがいけないの。在日だというだけで採用されないなんてそん馬鹿なことは無い」
なぜ、本人の適性、能力と関係ない事柄で採用が決まるのでしょうか?
なぜ、本籍地を書かなくてはいけないのでしょうか。
なぜ、家族の職業や収入を知る必要があるのでしょうか。
なぜ、支持政党や尊敬する人物を知る必要があるのでしょうか。
なぜ、女性に既婚かどうかとか、恋人の有無を聞く必要があるのでしょう。
情報化社会といわれ、自由と民主主義の先進的な国だと自負しているこの日本でなぜ、こうしたおかしなことがあるのでしょう。
2、今もなぜ差別があるのか
ここでは、差別の実態から一旦離れ、今もなぜ差別がなくなっていないのかということを考えてみたいと思います。多くの人々に根強くある「寝た子を起こすな」という考え方があります。
この考え方は、部落差別の問題を取り上げ、それを世論に訴えることは結局、差別を知らない者までその実態を意識させることで、更なる差別を生むというものです。その考えによれば、市民社会が成熟していけば、差別そのものも風化してなくなるので、そっとしておいたほうがよいという
ことになります。
しかし、それで差別はなくなるのでしょうか。いや、差別はそう簡単になくなるものではないのです。なぜなら、現代社会の構造とそれからつくられる文化状況、そしてそこに生きる私たちの心のあり方そのものに差別を生む働きがあるからです。
私たちの生活は、家庭・地域・職場など小さな社会の積み重ねです。その中でしか生きていけません。
競争が目的化された社会の中で
今、日本は競争社会といわれて久しく、たえず競争させられています。そして、個々人の判断ではなく、その競争の勝ち負けだけで社会の中での位置が決められてしまうことが多いのではないでしょぅか。また、他人との比較の中でしか自分の位置・価値(アイデンティテイ)、あるいは自分の生き方を見つけられない、こんなことはないでしょうか。
私たちは、意識して差別することは少ないといえます。しかし自らの生活環境や人生の中で、知らず知らずに潜在意識として差別意識を培ってしまっているのです。
また、あなたの意識の中に「中流意識」はありませんか。日本のほとんどの人が中流意識を持っているといわれています。
こうした意識によれば、一人ひとりの生活における価値観や目標がどこにあり、それがどの程度達成されているかということより、他人との比較で勝つことだけを問題としてしまいます。そして、このような意識は、自分よりも「下」を見つけて安心するという後ろ向きの意識と結びついていきます。さらに、自分の不満をぶつけるスケープゴートとして、より弱い立場の人をいじめるということも起こっていきます。このような意識構造が差別の温床となっています。そして、歴史を振り返ってわかるように、差別構造が支配の手段として都合の良いようにつくられ、使われてきたという歴史があります。
日常の習慣、文化の中で
何気ない日常の中で少し考えてみると「おやっ」と思うことがありませんか。
たとえば、葬儀から帰ったときに塩をまく慣習があります。このこと自体は、宗教上の問題ということもできます。しかし、こうしたことが、死者を「ケガレ」たものとしてとらえ、死体・葬儀にかかわる職業に従事する人々を社会的に差別してきた歴史的な事実があることも認めなければなりません。
日常行われている文化・伝統・習慣の中での何気ない行為の中に、差別をつくり、拡大していく芽があることも私たちは知る必要があります。
結婚式では、「〇〇家△△家のお席」という立て札が目につきます。結婚は家と家の結びつきではなく個人と個人の結びつきであるはずです。しかし、「家柄があわない」「家格に不釣り合い」などということが結婚の障害となることがいまだにあります。「家」に上下をつけ、個人を尊重しない文化が今も残っています。
「〇〇部長代理」「△△課長補佐」など私たちの回りにはこうした肩書きが結構あります。こうした肩書きが必要なのは、その人の仕事上の権限・分担などを表すためで、職場に限られたはずですが、「肩書き」が日常生活の中まで一人歩きしていないでしょうか。そして「肩書き」で人の価値まで判断していないでしょうか。
私たちの身の回りにあるこうした文化や伝統・慣習・社会通念の中にこうした問題がたくさんあります。
このようなことは、今日もなお私たちに「潜在意識」として根深くしみついており、私たち自身が取り除こうという意識を持って行動して初めてなくなるものです。自然となくなるものではありません。
「常識」や「伝統」が全部悪いわけではありません。その中に隠されている差別の温床に注目し、私たち自身が「人権」「平等」などの物差しでもう一度見直すことです。そのことなしに差別はなくなりません。
再生産される差別
このような社会構造と結びついて、現代社会においても様々な差別が再生産されています。
「ケガレ」意識、「家」意識、歴史的につくられてきた偏見と結びついて、部落差別が再生産されています。
日本を「単一民族」国家として、その「優秀さ」を強調する一方で、在日韓国・朝鮮人やアイヌ民族の権利を否定し差別する風潮も根強くあります。
また効率のみを重視した社会が、健常者が障害者とともに生きることを阻害しています。
また、女性労働者の低賃金の固定化や雇用形態による賃金格差など、同じ労働をしても賃金が大幅に違うことに疑問を持たないという、社会の二重構造を支える意識も差別意識といえます。
今、私たちは高度成長時代から低成長時代への曲がり角にたっています。日本社会は、競争社会から、私たち一人ひとりがゆとりや豊かさを実感できる社会へと、生活の質を変えていく必要があります。その取り組みと一体のものとして一人ひとりの人権と個性が尊重され、差別の無い平等で自由な社会を創造していかなければなりません。
3、労働組合がなぜ、人権問題に取り組むのか
労働組合は、その所属する組合員の雇用の確保と労働条件の維持・向上をはかり、労働者の生きがいを確立することを使命としてつくられました。
とはいえ、この使命も世の中全体が平和で安心して暮らせるものでなければ、一労働組合の中では達成されません。 部落差別の問題など、人権・環境・平和の問題を労働組合が積極的に取り組むのは、それらが決して他人事ではなく、自分たちの社会を住み良いものに変えるために必要なことだという認識からです。私たち組合は職場・地域から取り組みを進め、地球上からあらゆる差別をなくし、恒久平和と人権が尊重される社会の実現をめざします。このことが私たちの労働条件や雇用、ゆとり豊かさの感じられる社会確立の主要な基盤であるからです。
私たちになにができるのか
「差別と闘う」「差別をなくす」といってもさて、なにを行えばいいのでしょうか。
たとえば、交通事故や労働災害など私たちの職場や地域は、危険がいっぱいあります。「いつなんどき」ということは誰もわかりません。もし交通事故にあったら今の生活はいっぺんに吹き飛んでしまいます。
自らが車椅子生活になったとき、通院を欠かせなくなったとき、介護を必要とするものが家族にでたとき、いったい私たちの生活はどう変わるのでしょうか。まずは、自分をその立場に置いて考えてみてください。そして、そのような立場に自分を置き換えて職場を見つめ直すことです。
今職場はどうなっているのでしょうか。「なぜ」という疑問を感じることはないでしょうか。また、「当たり前」「常識」「固定観念」を取り払って、もう一度身のまわりを見つめ直してみましょう。
また、職場で気づいた点を見方を広げ、企業単位や産別組織・地域組織でも見つめ直してみましょう。同様の問題点があれば、それは制度の問題です。企業単位の問題であれば、就業規則や労働協約などの見直しにつながります。地域の問題であれば、条例や地域行政施策の見直しにつながります。産別や社会全体の問題ならば法律や制度改正を行わなければなりません。
一つの疑問からはじまり国の制度・法律まで発展してしまいましたが、一人ひとりの疑問「なぜ」には必ず共通するものがあります。はじめは一人からはじまるのです。ただその疑問をそのままにしないことです。
また、平等をうたった憲法の下で暮らし、同じ職場で働いているのに、何気ないことやまわりの雰囲気で「差別」してしまうということがないでしょうか。そのような自分の意識がどこから生まれてくるのか、また、差別を受けた人がどんな思いをするのか、深く考え、差別を許さない豊かな人間関係を作っていくことが大切です。さらに、自分が差別や人権侵害を受けたときに、泣き寝入りせず、きちっと指摘し、改善していく姿勢が大切です。
学習会や講演会・交流会に参加
差別や人権問題に関する学習会や講演会などが、様々な場所で取り組まれています。同和問題で言えば、部落解放同盟をはじめ行政や企業など様々な団体や場所で行っていますし、労働組合が行う場合もあります。また、書籍やビデオなど学習材料はたくさんあります。(中央共闘に問い合わせを)
私たちがもった「なぜ」の疑問に対し、その背景や歴史などを明らかにしてくれるでしょう。そして、そこから「なぜ」の疑問に答えるために職場や地域の単位で討論していくことです。
労働組合が提起する運動だけでなしに、職場単位・地域単位でなにができるかを工夫していくことです。
たとえば、企業は行政指導で同和問題研修を行うことになっていますが、おざなりになっていないか。求人の際には「統一応募用紙」(用語解説参照)を使っているか。など労働組合としての点検項目は様々あります。一つひとつチェックしていくこと、そして企業に認めさせることです。
4、職場から、地域から、人権文化の創造を
〜「人権教育のための国連10年」〜
これまで、私たちに何ができるのか、について考えてきました。
つぎに、「人権教育のための国連10年」というチャンスを生かすことによって、私たちの取り組みを大きく前進させることを呼びかけたいと思います。
国連の提唱する人権教育とは
略
「人権教育のための国連10年」が呼びかけられた背景
略
日本では・・・
略
各地で幅広い「推進連絡会」を結成し
自治体ごとに推進本部の設置と行動計画策定・実行を迫ろう
97年7月に政府の「行動計画」が、不十分な内容ではありますがようやく出されました。さらに都道府県・市町村での推進本部設置と行動計画づくりも進みつつあり、その具体化を求めていく必要があります。
自治体では、今日までも同和研修や人権啓発などが取り組まれてきました。そして人権週間など機会あるごとに、講演会やイベントなど様々な取り組みがなされています。
しかし、これらの取り組みも、部落解放運動をはじめとした運動によって実現してきたものです。地域で幅広い団体・個人と手を結び、自治体に対し要求行動をおこしてください。
そして、自治体の推進本部設置と行動計画策定をかちとり、自治体と連携しながら、企業、学校、マスメディア、労働組合など民間団体での取り組みも促進していきましょう。
自らの職場・地域で人権教育の推進を
部落解放中央共闘、全国共闘では、6月を「就職差別撤廃月間」、12月を「差別撤廃・人権擁護推進月間」とし、差別と人権侵害を許さない職場づくり、地域社会づくりを呼びかけています。職場で地域で人権問題の学習・教宣活動をすすめ、身の回りの生活を人権という観点で見直してみましょう。
また、労働組合が地域住民と連帯して、また、労働者ひとりひとりが地域の市民として取り組んでいく観点も大切です。人権週間(12/4〜10)な
どには、自治体の取り組みなども増えますが、それに協力や提言をしていく事もひとつの方法でしょう。
5、差別のない社会をめざして
私たちは、自分が差別されるのもいやですけれど、差別する側になるのもいやだと思っています。しかし、現実には多くの人が、何らかのかたちで差別を受け、別のケースでは差別をしてしまうという立場にあります。たとえば性差別を受ける女性であっても、被差別部落の女性を除いた女性は部落差別をする側にいる、というようにです。私たちは、あらゆる差別問題の理解を深め、差別をなくす不断の努力によってしか、このジレンマから抜け出すことはできません。
人権とは誰にでも平等に存在するものですが、意識的に擁護していかなければ、侵害されていくものです。差別をなくし、人権擁護を進めるためには、多くの人々の不断の努力が必要です。
また、「人権教育」というと非常に堅苦しい響きがするかもしれません。しかし、私たちの身近にたくさんある差別問題を一つひとつ取り上げ、見直していくためにも、様々な差別問題について学ぶことが大切です。
「人権教育」は、差別をなくす行動をうながす教育であり、差別文化を否定し自分自身を豊かにする取り組みでもあります。
国連は、人権教育10年の行動計画の中で、人権教育を「生涯にわたる学習」として、「教育・研修・宣伝・情報提供を通じて、知識や技能(スキル)を伝え、態度を育むことにより、人権文化を築く取り組み」と定義しています。
差別をなくし、人間がお互いに尊敬しあえるような人権文化を創造するために、一人ひとりが、そして労働組合の課題としても取り組んでいきましょう。
また今日、政治、経済の混迷など困難な状況もありますが、そのような時代には人権が抑圧され差別が助長されるという苦い歴史があり、その意味で今こそ私たちが考え行動し、21世紀を人権の時代としていきましょう。
《運動の紹介》
部落解放運動の広がりと人権擁護運動
1922年、同情やあわれみに期待する運動を批判し、「部落民自身の行動によって絶対の解放を期す」(綱領)ための運動体として、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれる水平社宣言を発表し、全国水平社が結成されました。そして、運動の柱である差別糾弾闘争は全国に広がり、「泣き寝入り」を強いられてきた被差別部落大衆は次々と各地で水平社を結成し、それ以降、部落解放運動は組織的な運動として大きく発展してきました。戦争体制のもとでの弾圧を受け、戦後に再建された運動は、現在の部落解放同盟へと継承されてきました。そして、差別行政糾弾闘争(用語解説参照)など様々な課題に取り組み、日本における差別撤廃と人権擁護に大きな役割を果たしてきました。とくに、部落解放運動によって実現した国や自治体における様々な施策は、人権政策の遅れている日本においては突出したものとなりました。そして、たとえば自治体職員に対する「同和研修」をはじめとする人権教育がおこなわれ、市民に対する人権啓発として講演会や様々なイベント、広報活動などが盛んにおこなわれるようになるなど、様々な差別撤廃・人権擁護の取り組みにも波及効果をもたらしています。
各界に広がる運動
部落解放中央共闘会議は、1975年12月に結成されましたが、部落解放同盟と労働組合が連帯して、部落差別の解消とあらゆる差別撤廃をめざし、狭山事件の再審を求める運動など、様々な運動に取り組んできました。また、今日の部落解放運動は、部落解放同盟や労働組合だけでなく、宗教者や企業など幅広い人々に広がりをみせています。
企業においては、「部落地名総鑑」差別事件(用語解説参照)をきっかけに部落解放運動のとりくみが始まりました。1978年に大阪同和問題企業連絡会(146社)が結成され活動を開始、翌年には東京人権啓発企業連絡会(123社)がつづき、現在は13都府県で企業集団が活動しています。
また、宗教者の差別発言への反省をきっかけに、1981年に「同和問題」にとりくむ宗教教団連帯会議(65教団3連合体)が結成され、宗教者の
とりくみが本格的に始まりました。現在では19都府県に同様の組織ができています。
企業の取り組みは、従業員研修が中心で、就職差別や職場での差別をなくしていこうというものです。また、宗教者は、自らの教団内部の研修を基礎に、差別的な身元調査を「しない、させない、ゆるさない」という啓発運動にも取り組んでいます。
さらに、部落解放同盟の呼び掛けに応え、労働組合、企業、宗教者、学者、被差別の当事者の団体などの広範な人々によって、「部落解放基本法」制定要求中央実行委員会が結成されており、「部落解放基本法」制定をはじめとする日本の人権政策確立にむけた取り組みをおこなっています。また、同様に世界人権宣言中央実行委員会が結成されており、12月4日〜10日の人権週間に記念集会を開催しています。
このように、部落解放同盟や労働組合だけでなく、企業、宗教界など様々な立場の人々が部落解放運動に取り組みはじめています。そして、これらの運動が、日本における人権擁護運動のひとつの大きな力となっています。