ニューヨーク市・人権委員会のとりくみ
雇用・住宅・公共サービスの差別に対応
昨年9月、部落解放中央共闘会議として、アメリカの差別撤廃・人権運動に学ぶ視察交流団を派遣した。そして「部落解放共闘情報bP51」に全体的な報告記事を掲載し、AFL−CIOとの交流内容も詳しく報告した。また、bP53では雇用平等委員会(EEOC)の活動を詳しく報告した。今回はニューヨーク人権委員会の活動について、マルタ・バレラ委員長、ランドルフ・ウィルス法執行局長、ロッキー・チン上級弁護士から聞いた話の概要を紹介したい。
ニューヨークはアメリカでも最も多様化が進んでおり、人種などの差別を扱ってきた古い歴史がある。ニューヨーク市人権委員会は、マイノリティの人権擁護を主要な目的として1955年に設立された。米国では雇用、住宅分野、公共施設等における差別は法律で禁止されている。公共施設とは、映画館、図書館、レストラン等である。
人権委員会の活動には二つの分野がある。
一つはコミュニティー関係局で、地域の様々なグループ間の緊張をやわらげ、若者の教育に関する違いをうめる方法を探している。そして、前向きなグループ間の関係を築くためにコミュニティーで活動をしている。
もう一つは法執行局で、差別に関する苦情申し立てを受け付け、調査や法手続きをおこなう部署である。法手続きにとって最も大切なことは透明度であり、全ての苦情は公にできる。また、処罰が問題となった時に、差別の加害者に同じ様なケースで処罰が一定だと証明するためにも、基準が一定でなければならない。
差別を禁止する法を執行
雇用、住宅、公共の場における差別は法律で禁止されており、法は差別を調査するのに大きな力を与える。人権委員会は、ニューヨーク市の4人以上の労働者を雇っている雇用者に対する管轄権を持っている。また、住宅供給者に対する管轄権、そして全ての公的分野の管轄権を持っている。公的分野とは、公共にサービスを供給するビジネスである。
ニューヨーク市は古くて大きい市なので、州、連邦の人権法とは別に、市が作った人権法もある。ニューヨーク市の人権法は、最も広く市民の人権を守っている。これは、人種、肌の色、民族的出自、国籍、宗教、年齢、障害、性別、職業、性的指向、結婚暦、家族形態、そして、これがニューヨーク市にとっては最も重要であるが、外国人の市民としての地位(市民権の有無)に基づく差別を禁止している。
人権委員会の法執行局は、毎年約1200の差別に関する苦情を受けている。差別されたと思う人は誰でも、人権委員会のオフィスに来て専門家と面接し、苦情を訴える権利がある。
受け取る苦情のうち、約70%が雇用差別、15%が住宅供給差別、15%が公共サービスにおける差別である。また、最も多いタイプの差別は人種にもとづく差別で、その次が生まれた国にもとづく差別である。つい最近まで、性差別は3番目に多い差別の要因であったが、現在は障害にもとづく差別が増え性差別と並んでいる。これは、10年前に連邦議会で「障害者のアメリカ」という法律が成立したことが原因である。
法執行の手続きと内容
差別を受けたと思う人は、それを人権委員会に申し立てる。
法執行局の最初の役割は、中立な事実調査である。まず、最も早い段階で仲裁を試み、雇用主や家主と話し、問題を解決できるかを試す。しかし、大抵は解決しないので、調査員が調査にはいり、苦情の内容を被告(例えば雇用主)に知らせる。雇用主は、それを受け取り、人権委員会に返答し対応する法的な義務がある。そして、両者から受け取った証拠を評価する。
受け取る証拠は、個人的履歴、差別暦の報告書など様々な形をとる。雇用差別の場合、目撃者や上司をインタビューしたりする。住宅差別の場合は、委員会からテスト員を派遣して、本当にそのような理由で差別がなされるかを確かめる場合もある。
調査員は証拠をまとめ、その事例をどのように扱うべきかを詳しく報告書に書いて、弁護士資格をもつ主任に提出する。そして主任がその判断に賛成すれば、報告書は委員会に提出される。もし、主任が証拠不充分のためにその事例は却下されると判断した時は、当事者が最終的に委員会に直接訴えることも出来る。これが、重要な点である。その後、最終的に事例の扱いが委員会で決定される。もしも、差別が起っていると委員会が判断すれば、報告書を両者に提示し、満足な解決がない限り裁判に持ち込むことを知らせる。
裁判は、地方裁判官のもとで行われる。裁判は、その複雑さに応じて長さが決まる。裁判官は、全ての証人から証言を聞き、書面での証拠も参照する。
時に、専門家の証言を聞くこともある。例えば、多くの障害者の場合、医療の専門家から意見を聞く。裁判の最後に、人権委員会は「勧告」をおこなう。裁判官は全ての発表された証拠と、どのように法的反論がなされたかを分析し、差別が行われたのか、それとも行われなかったのかを判断する。もし、裁判官が差別は行われたと判断した場合、賠償金の支払いを命じる。
例えば、雇用主に、被害者がもらえるはずだった額の給料を払うように命じることができる。また、被害者が受けた精神的苦痛に対して、賠償金を支払うよう命じることができる。雇用主に罰金が科せられる場合、最高は10万ドルである。
最終的に裁判官の決定を受け入れるか、人権委員会で再度審議し決定する。これらのどの段階においても仲裁は可能である。
質疑応答
質問)委員などの構成。マイノリティは含まれているか。
答え)人権委員会のスタッフはおよそ100人強である。
ニューヨークは5区に分かれているが、スタットンアイランドを除く4区に地域オフィスが設置されている。それぞれ6〜10人が働いている。
12人ほどの弁護士がおり、他に調査専門家がいる。昔は裁判官もいたが今は市に属している。
委員は15名で、市長によって選択される。委員長は給料をもらっているが、他はボランティアである。委員はスタッフではなく、市民、宗教的リ−ダ−といった人達だ。
スタッフは3つの労働組合に属している。一つはチームスターズで弁護士の組合。もう一つがDC37でニューヨーク市の組合で、調査官などが入る。それから、コミュニケ−ションアメリカで、部長クラス以上が入る。
男女比は即答できないが、人権局なので他の局よりもマイノリティの数は多い。過去15年間に4人が委員長になったが、アフリカ系女性もゲイもいた。
質問)差別を救済する法律や制度をどのように市民に知らせているのか。
答え)パブリックインフォメーションオフィスというのがあり、これが市民への情報を伝えている。最近、住宅供給における差別と公共の分野での差別についてのパンフレットを新しく作り、ニューヨークに存在する全ての地域団体に、1000部づつ無料で配付した。
また、タクシー運転手が肌の色を理由に乗車を拒否することが多くあり、パンフレットを配布し、それがニューヨークの人権法にも違反し禁止されていることを周知している。パンフレットが一般市民とのコミュニケーションには有効である。
他には、年報告に1994ー2000に行った訴訟が載っている。また、勝訴すると多きなメディアにプレスリリースを出す。それから、ウェブサイトを開いており、委員会に手紙を出すページもあり、メールが来た場合は10日以内にそれに返答することを義務としている。法的リサーチサービスもあり、開設以来45年間に問題となった事例を調べることができ、必要な時にはコピーができる。
質問)慰謝料をもらっても、差別をされた側は心の傷が癒えないことがあるが。
答え)人にもよるが、金銭的解決は精神的ダメージを癒やす助けになると考えている。被害の金銭的解決は、被害をお金で測るアングロサクソン的な法といえる。また、悪いことをした人に経済的制裁を加えることだ。
質問)申し立て数が1200というのは少ないと思うが。知らない人も多いのではないか。
答え)人権委員会のことを全然知らない人もいる。特に、新しく来た移民は自分が権利を持っていることを知らないことが多い。また、合法でないために、知っていてもここに来ることをためらう。そのような人達に、自分が権利を持っていることを気付かせることが大切だ。そのために、地域の団体、教会、民族グループなどに働きかけ、密接に活動しながら努力している。
また、パンフレットは英語とスペイン語だけで、アジア系の移民に対する言語はまだ無い。このことはもっと努力しなくてはいけないと考えている。スタッフに関しても、言語の問題があるが、そのようなことをする予算が今のところ無い。
アメリカでは、労働許可証をもたない労働者を雇った場合には雇用主が罰を受ける。1986年に恩赦がだされ一時的に働けるようになったが、恩赦なので期限があった。
連邦法は平等な雇用を定めているが、非合法労働者を雇うと雇い主が罰せられる為、外国人に見える人は適正な審査なしに最初から雇用の機会をなくした。そのようなことがあったので、ニューヨーク市では外国人労働者を守るために、市民権の有無による差別を禁止する法律を作った。
米国では今も非合法労働者は政治的問題である。現実に多くの非合法労働者が働いているが、非合法であるために彼らは他の労働者よりも悪い扱いを受ける。しかし、彼らは差別されるべきではない。
人権委員会では、非合法労働者の問題も解決しようとしており、苦情を申し立てた労働者が労働許可証を持っているかは問わない。しかし、実際は移民局と連絡をとるのを恐れて、訴えを取り下げる場合もある。