国連・反人種差別国際会議とNGOフォーラムの報告
−反人種差別運動はICFTUの中心的活動−

                                連合 国民運動局長 林 道寛

163カ国から約8,000人が参加
 8月31日から9月7日にかけて、南アフリカ共和国のダーバンで国連主催による「人種主義、人種差別、外国人排斥および不寛容に反対する世界会議」(WCAR−WORLD CONFERENCE AGEINST RACISM)が開催され、163カ国の政府代表ら約2,300名が参加した。NGOも世界中から4,000名が参加し、8月28日から9月1日かけてNGOフォーラムを開いた。
 世界会議およびNGOフォーラムには、連合やAFL−CIO(米国)、TUC(英国)、DGB(独)、FO(仏)、KAD(デンマーク)LO(スエーデン)などICFTU(国際自由労連)傘下の加盟組織や地域組織から人権や反人種差別に取り組む労働組合指導者や活動家、専門家、担当者など63名が参加した。また日本からは政府代表団(18名)、ダーバン2001などNGO約100名が参加した。報道関係者は1,100名。日本政府代表団(18名)にはNGO代表として武者小路公秀(人権フォーラム21代表)氏が参加。また顧問議員団として民主党の石毛えい子、北橋健二、小宮山洋子各衆議院議員、社民党の福島瑞穂衆議院議員が参加した。
 国連はこの世界会議の開催にあたり「あらゆる人種差別や不寛容に対し、総合的に取り組み、人種差別撲滅のための現実的な対策に主眼をおく」と位置づけ、その目的を@これまでの国連の反人種主義・反差別の取り組みの総括、A民族差別をなくすための方法、手段の検討、B民族差別とその災禍についての一層の啓蒙、C民族主義、民族差別、外国人排斥、その他関連の不寛容との闘いに向けた国連の取り組み強化策づくり、D民族主義の原因究明、E国内、地域、国際における反人種主義、反差別の取り組みの行動策定、F国連が反差別と闘うための財政確保の勧告―の7つとした。また、移民の権利推進のためのグローバルな努力も強調した。
 世界会議では、過去の奴隷制度や奴隷貿易に対する謝罪と補償問題、中東(シオニズムは民族差別とするアラブ諸国の主張)問題、インドのカースト・被差別部落問題が政治的焦点となった。最終的には会期を1日延長して奴隷制・奴隷貿易について「人道に対する罪」とする最終宣言と行動計画を採択した。

ICFTUが差別撤廃へ国際的団結を訴え
 ICFTUはこの世界会議を「ICFTUとその加盟組織にとって、増加する移民労働者の権利保護の必要性を強調し、労働力の多様化の高まりを認識し、われわれ自身の組合内部を含めた労働市場や職場、社会における人種差別と闘う努力を強化する絶好の機会」と位置づけ、積極的参加を行った。また、期間中にはNGO会場内に展示ブースを確保し、ICFTU、加盟組織、地域組織の反人種差別の取り組みを紹介する各種の展示を行った。さらにICFTUは、毎日午後と夕方の2回、ICFTUの参加者全員を対象にミーティングを持ち、スケジュール確認や政府間会議に参加したメンバーに会議の進捗状況、問題点などの報告を求め、全体で検討した。
 ICFTUはこの国際会議にさきがけて本年5月6日から9日までカナダ・オタワで25カ国36名を集め、「人種差別と外国人差別と闘う労働組合」をテーマに国際ワークショップおよび準備会議を開き、WCARのダーバン宣言ならびに活動計画草案の検討を行った。また、ICFTUは各国ナショナルセンターに対し、影響力を行使するため、できるだけ政府代表として世界会議に参加するよう呼びかけた。その結果、CLC(カナダ)、FO(仏)などのナショナルセンターが政府代表として参加した。
 NGOフォーラムではICFTUは3日間にわたり「コミュニティーにおいて人種差別と闘う労働組合」(8月28日)、「平等と多様化を通じて組織を改革する」(8月29日)「人種主義および拝外主義と闘う労働組合」(8月31日)の3つのテーマで国際ワークショップを主催した。さらに8月31日には「グローバル・コンパクト」と題して労働パネルが国連主催で開催され、ICFTUのビル・ジョーダン書記長がパネリストとして参加し、「ICFTUは貿易のグローバル化に取り組んでいる。その中で重要なことは国の内外、企業の中において人種差別をはじめとする様々な差別に反対していくことだ。われわれ労働組合の役割は重要である。世界規模で反差別への団結が必要であり、その大切さを強調したい。ICFTUはこうした労働組合の世界的な取り組みの中核となって闘っていく」と力強く述べた。

What is BURAKU ?
 連合は8月30日に開かれたICFTUの国際ワークショップにおいて日本の被差別部落の歴史と差別の実態について明らかにした。さらに連合が部落解放中央共闘に参加して反差別、人権確立に向けて取り組んでいることについても報告した。
各国の参加者からはフォーラム終了後、「部落とは何か」とか「肌の色が違うということならわかるが、同じ日本人の中でどうしてそのような差別があるのか。理解できない」など率直な疑問が寄せられた。連合ではICFTUの会合の中で部落解放同盟が作成した「What is buraku?」のパンフレットを配布した。
 またインドのカーストや部落差別をなくす取り組みについてふれている行動計画の原案「パラグラフ73」は、インド政府が「国内問題だ」として削除を強く要求。連合はICFTUの各国参加者に対し、自国政府にパラ73を支持するよう働きかけを行った。また日本のNGOもパラ73の支持を各国政府に働きかけた。しかし最終的にはインド政府の強い反対によって合意にいたらず、活動計画には入らなかった。

具体的活動を通して国際連帯を
 148カ国、221加盟組織、組合員1億5600万人を組織するICFTUは、第17回世界大会での人種差別撤廃決議を受けて、今回の国連世界会議を焦点に反人種差別、反民族差別への労働組合の闘いについて戦略的取り組みを構築してきた。今後世界会議で示された行動計画に従って、各加盟組織が自国内で様々な具体的行動を実行に移す段階に入った。各労働組合の反差別、人権確立への取り組みが求められており、ビル・ジョーダン書記長は「労働組合が何をすべきか行動することだ」と訴えている。
 連合は10月4日、5日に開催した第7回定期大会の運動方針で国民運動の重要課題として人権確立に向けた取り組みの強化を決定した。来年の第154通常国会には、「人権侵害救済制度」の確立に向けた法案が提出される予定である。国連の国際人権規約にそって日本国における真の人権確立のための制度にしていかなかればならない。また未だに後を絶たない就職差別や結婚差別などに対しても差別を許さない労働組合の闘いが必要である。今回、ICFTUの一員として連合が国際会議、NGOフォーラムに参加したことは、差別撤廃・人権確立に向けた国際連帯を深める上で大きな意味を持ったといえる。