《世界人権宣言54周年記念集会における海外ゲストからの報告・要旨》

主要な活動は国家機関による人権侵害を正すこと

                     韓国国家人権委員会常任委員・人権大使 パク・キョンソ

 2001年4月に国家人権委員会法が僅差で可決、11月に施行された。同法は、1960年代から80年代にかけて存在した独裁政権の歴史を繰り返さず、国家権力による人権侵害を断ち切るという韓国民衆の意思の反映である。
韓国の国家人権委員会は、2001年11月25日の設立から1年間で2971件の陳情を受理し、81%(2411件)が人権侵害の陳情、差別に関する陳情が138件、その他の陳情が422件だ。人権侵害の陳情のうち、37%が刑務所等の矯正施設、30%が警察、12%が検察に関するもので、人権委員会のおもな活動は国家やその関連機関による人権侵害を正すことである。
 国家機関による人権侵害は重大である可能性が高く、正すことも容易ではないが、人権委員会の最優先の任務だ。韓国の「国家人権委員会法」は、国家機関、地方自治体、拘留施設または保護施設などの人権侵害を明記しているが、日本も法案に明記すべきだと考える。
  政府からの独立性が重要
 また、政府機関を調査するさい、政府の干渉から人権委員会を自由にする独立性が非常に重要で、韓国の人権委員会は政府の行政、立法、司法のどの部門にも属していない。
 人権委員会の独立性を確保するために、韓国のNGOは、1999年に政府・法務部が提出した人権委員会設立の法案を廃案に追い込み、3年にわたり闘いつづけた。日本で設立される人権委員会も、権限、予算および監査を法務省が支配するのは不適切であり、法務省に従属させれば政府機関の人権侵害にたいして無力化する。適切な機能遂行のためには法務省から独立させなければならない。
 韓国の人権委員会は、受理される陳情についてだけでなく、人権委員会自身のイニシアチブで重大な人権侵害と差別行為の調査に活発に活動している。最近の事例をいくつか紹介すると、政府による障害者差別や公務員の怠慢、検察の取調中の拷問による死亡などの案件があった。これらも、もし人権委員会が独立性を保障されていなければ、政府機関を継続的に調査することは不可能だったし、国家公務員から人権侵害された個人を効果的に救済することもできなかっただろう。
  勧告の権限も重要
 人権委員会が、人権に関連する法令、司法制度、政策およびその実践に関して、改善の勧告をする事も重要な任務だ。
たとえば今年3月、米国のテロに関連し、ワールドカップの開催で想定されるテロから国を守る「テロ防止法案」が韓国の国会で議論された。しかしこの法案は、法執行機関による権力濫用につながることが明らかで、人権侵害の重大な危険性があり、死刑適用の可能性もあった。そのため、人権委員会が法案への反対声明書を示し、法案は国会を通過できなかった。
 また、人権委員会は、韓国に働きにくる移住労働者に関する現在の産業研修生制度のもとで重大な人権侵害が発生していることから、この制度の再検討を総理府に勧告している。
 教育・人的資源開発省へは、教科書中の13項目の訂正や、教師による生徒への体罰禁止、生徒が各学校の運営委員会に参加できるように関連する法律を修正すること、を勧告している。
 こうした勧告機能は、社会の人権状況を効果的に向上させるもので、すべての国の人権委員会にとっても重要な機能だ。
  NGOや研究者も職員に
 人権委員会の委員は韓国では11人。日本の人口は韓国の3倍以上であり、人権委員会の地方事務所が提案されているものの、膨大な陳情は避けがたい。委員がわずか5人では不十分だ。
 人権委員会の職員は、韓国ではその半数が以前にNGO活動家や研究者、教育者などをしていた人権の専門家だ。
 韓国の経験から見ても、独立した効果的な人権委員会を日本に創設するには、現在の「人権擁護法案」は修正しなくてはならない。必要な修正をし、効果的で日本の人権状況向上に貢献する機関を設置していただきたい。

人権委員会の組織構成、意思決定、予算の独立性が重要

                          タイ国家人権委員会委員 スティン・ノーパケッ

 「民衆の憲法」とよばれる憲法のもと、セミナーやグループディスカッションなどをするなかから議員を動かし、1999年11月25日、憲法199条と200条にもとづき、「国家人権委員会法」を制定した。
 人権委員は選任委員会で選出され、選任委員会は中立で公開性と透明性をもって活動し、十分な経験と高い倫理観を有した委員が選出されるよう追求している。また、人権委員会の活動状況は、どうすれば人びとが最大限活用できるかという視点からフォローアップされている。
 タイには、人権の保護・発展への関連法として「情報法」「オンブズマン法」「行政裁判所法」「国家人権委員会法」の4つがあり、「国家人権委員会法」には、人権委員会のつぎの機能が示されている。
 @国内・国際レベルでの人権原則の尊重と遵守の実行の促進A人権侵害やタイが加盟する人権条約の義務にしたがわない行為の調査・報告B人権の促進と保護の法律・規則の改正に関連する政策・勧告の提言C人権に関する教育、研究と知識の普及の促進D政府機関、民間組織と人権分野の他組織との協力・調整の促進E国内の人権状況の年次報告の作成、議会と閣僚委員会への提出、一般への公表F人権条約にタイが加盟する場合に閣僚委員会と議会に意見を提言する。
  運営の独立性が最重要
 人権委員会に求められるもっとも重要な点は、運営の独立性だ。人権委員会が任務と責任を遂行し、成功するには、その構成組織、意志決定プロセスと財政面など、すべてで独立していなければならない。政府や政府のどの省庁にも付属しない独立した機関でなければならず、非政府組織(NGO)からも独立した存在であるべきだ。また、あらゆる組織との直接的な衝突を避けねばならない。人権委員会が、社会のあらゆる部門との調整をし、広くひらかれた政策を策定することも重要。設置は、あらゆる人びとがアクセスしやすい場所と形態を考えて設置するべきで、厳重な警備はするべきではない。そして、充分な人員を確保する必要がある。
  人権委員は全員常勤で11人
 人権委員は全員常勤で、前職にかかわらず自らをあらゆる人びとの人権侵害問題解決にとりくむ専門的な人権実務家と考えるべき。人権委員の人数は、タイの人口は日本の約半分だが11人であり、日本では20人、できれば22人が必要だろう。
 タイの国家人権委員会は、2002〜2007年にかけての方針として、@委員会の組織としての強化A情報ネットワークシステムの構築、研究調査活動B人権尊重の政策の促進と法改正C政府省庁や民間団体、市民社会との関係の構築D実効性のある保護メカニズムの開発E人びとが自らを保護し、憲法上の権利を行使する能力の向上F人権の保護の分野での強力な活動G人権と人間の尊厳の尊重に関する社会教育、人権意識の向上、を打ち出した。そして重点分野として、@子ども、青少年教育、家族A天然資源、コミュニティーの権利B法律と司法手続きC社会政策D人権教育、の5つをあげている。
 日本の「人権擁護法案」は、これまで日本政府が主導してきた。しかし、みなさんが参加することで飛躍的に改善されるだろう。今回のような強いキャンペーンで、日本政府が法務省などの所管に人権委員会を設置する方針を変えることを期待している。日本の市民社会活動が、政府と議会に影響を与え、人権委員会がより高い独立性をもち、人びとの意志と信念にたいしてよりひらかれ、効果的で実効性のある組織になることを望む。日本のあらゆるセクターの人びとが良好な関係を保ちつつ、世界最高水準の国家人権委員会の設立に寄与されることを心から期待する。