差別撤廃へ積極的に取り組む各国ナショナルセンター
−ICFTU・国際ワークショップの報告−

                                 連合 国民運動局長 林 道寛

25カ国から専門家や活動家が参加
 ICFTU(国際自由労連)は、カナダ・アイルメール市において5月6日(日)から9日(水)までの4日間、「反人種差別・反外国人差別に向けた労働組合の取り組み」をテーマにワークショップを開催した。ヨーロッパやアメリカ、アジアなど25カ国のICFTU加盟ナショナルセンターの専門家や活動家をはじめ、ICFTU本部やAPRO(アジア・太平洋地域)、AFRO(アフリカ地域)、ORIT(中央・東ヨーロッパ地域)の3地域組織の代表など35名(その内、女性は15名)が参加した。またEI(国際教育組織)、PSI(国際公務員労組)、ILOのほか地元CLC(カナダ労働組合会議)からも多数のオブザーバー参加があった。

運動に直結するワークショップに
 今回の会議では、内容が各国や地域、国際レベルでの反差別に向けた労働組合の具体的活動計画の基盤となるようにするため、あえて「会議」とせず、専門家や活動家に絞ったワークショップ形式となった。ICFTUのビル・ジョーダン書記長は開催にあたり、各国ナショナルセンターに対し、参加者対象は職場や地域で人権擁護や人種差別と闘う労働組合の活動家、市民権、移民、民族的マイノリティー、先住民問題などに取り組む職場や労働組合の担当者であることを要請した。
 ワークショップ開催の目的は、第1に本年8月31日から9月6日まで南アフリカのダーバンで開催される「人種主義、外国人排斥、不寛容に反対する国連世界会議」へのICFTUの対応及び採択される「ダーバン宣言」に対する文案の修正・補強の検討、第2に反人種差別や反移民差別についての各ナショナルセンターの取り組み報告と情報交換、第3に労働組合が取り組むべきアクションプログラムの具体化の3点である。

強調されたダーバン会議での労働組合の役割
 ワークショップでは、中核的労働基準をテーマにILOのステーブ・フォルツ氏が講演。さらに国連・人権高等弁務官のエルサ・メタプールさんがダーバン世界会議について講演を行ない、会議の成功に向けて労働組合の役割の重要性を指摘した。また同氏は「政治色の濃い議題」と前置きしてダーバン会議では中東(パレスチナ)、カースト(インド)、部落(日本)の3つの差別問題が取り上げられることも明らかにした。
 第1日目の冒頭、ICFTU女性委員会のナンシー・リッチ委員長が議長あいさつし、人種差別や民族差別と闘うICFTUとして世界会議にイニシアティブを発揮すること、NGOや市民団体との友好を築くこと、世界会議に参加する自国政府がどういう立場をとるのかせまっていかなければならないことをあげ、労働組合の立場からダーバンの世界会議に参加する意義を強調。「ICFTU加盟組織は自国政府に働きかけていくことが役割だ」と述べた。(なお、議長は各NCの持ち回りで行われた)
 地元CLCを代表してハッサン・ヨセフ氏が「反人種差別・反移民差別の明確な行動計画をつくっていきたい。このワークショップには色々な人種が参加しており、人種差別をなくしていくことに貢献できる」とあいさつし、会議の成功に期待をよせた。

人種差別や移民差別は政治的・社会的に大きな問題
 各ナショナルセンターの取り組み報告では、「女性が労働組合の中でどう力をつけていくのかの取り組みを行っている」(シュベールさん・デンマーク)「組合メンバーの50%が移民労働者であり、その多くが女性。移民差別をなくすプロジェクトに参加している」(ヌクール氏・トルコ)「コソボで戦争が行われ、民族差別や宗教差別で多くの人々が犠牲になっている」(ヤスナーさん・ギリシャ)「政治的なアジェンダについて闘っていきたい。新たな人種差別が労働の現場で起きている。差別反対の迅速な行動が必要だ」(ロジャー氏・イギリス)「人種差別が発生している。他の国の労組がどういう対策をとっているか学びたい」(デニール氏・オランダ)「10年前にNCの中に人種差別反対のセクションをつくり運動している」(ジュリアン氏・ベルギー)「紅茶農場での移民労働者差別と闘っている」(ベッティーさん・スリランカ)「移民労働者のための教育が重要だ。移民労働者への権利について取り組んでいる。こうした情報交換は重要だ」(アリアン氏・アルジェリア)「貧困や児童労働などの状況がある。しかも全く社会保障がない」(ユレーさん・エクアドル)「先住民の権利と独立性をサポートしている。土地や文化、言語などで先住民に対する貧困や差別が問題となっている。先住民とのパートナーシップをつくることが重要で、労働組合は10年前から政府と話し合いを続けている」(ジョースコさん・ニュージーランド)「我が国は移民輸出国から移民輸入国となった。労働組合の政治的対話の中で移民の権利を守っていく。外国人労働者のための情報センターを全国130カ所に設置した。労働組合以外でこうした問題に対応する組織はない」(モハメッド氏・スペイン)「人種差別がより複雑化したものになっている。雇用者は法的な権利を守らない。基本的社会保障が認められていない労働法の改正運動に取り組んでいる。これは植民地時代の差別が労働法にも影響を与えているためだ。NGOはパートナーであり、ネットワークをつくり共闘すべきだ」(ディアロ氏・セネガル)「反人種差別の強力な政策的取り組みを行っている」(リスベスさん・フランス)「職場における権利・人権保障はダブルスタンダードではいけない。反人種差別の世界的な基準を作ったらどうか」(チャリティさん・米国)「非寛容には絶対反対だ」(セルジー氏・チェコ)「法律の見直しなど、人種差別撤廃に取り組んでいる」(スルマさん・イタリア)「差別撤廃では政府の姿勢が大いに問題となる。説明責任が必要だ。また労働組合の中の差別をなくさなければならない」(ボニーさん・カナダ)「50年間ほとんど移民はなかった。この10年で移民が増大した。教育など新しい移民政策が求められており、労働組合は政府に提言している。また労働組合として移民を組織化の対象としていく」(アニタさん・スウェーデン)など積極的な発言が多かった。

補強修正は5項目
 ダーバン宣言の案文に対する検討では、4つのグループに分かれて項目ごとに行われた。その結果、(1)階層、人種、ジェンダへの国際金融機関がもたらす影響についてふれること、民族紛争で使用される武器輸出に反対すること、(2)人権や差別禁止法の充実、国際条約の批准と適用、(3)国際的に広がっているインターネットでの差別・煽動に対する国による規制強化、マスメディア自身による自主規制の強化、(4)行動計画における労働組合の役割と評価、労働者の平等のための法案づくりへの労働組合の参加、(5)植民地・奴隷制度への補償、債務の解消、などの内容を補足することになった。
 討論の中では植民地や奴隷制への「REPARATION(弁償)」をめぐり、表現が強すぎるため、「補償」などの別の言葉にすべきだとの意見がフランスなどからだされた。また、債務解消問題では、「債権国」は新植民地主義との意見がだされたため、債務解消への理解を前提とした上で、債権国の一つである日本におけるODA(政府開発援助)は国民の税金であること、途上国支援については国民の理解が基本にあることなどを説明し、決して新植民地主義ではないことを訴えた。ただしODAのあり方については問題点も多く、連合として政府に提言していることも明らかにした。なお、「弁償」問題については採決が行われ、賛成多数で提案された通りの「表現」となった。

雇用形態での差別と人種差別に見る温度差
 日本の報告では、中小企業における格差やパート問題などを取り上げた。パートの話にはいくつかの反応があったが、反人種差別というテーマの趣旨からしてかなりの温度差があったようだ。
 各国の報告にふれて感じたことは、雇用や労働条件に絞ってみた場合、格差や差別が日本では官―民、大手―中小、正規―非正規(パートなど)など雇用形態によって表面化しているが、諸外国では雇用形態ではなく人種、民族、移民あるいは宗教上の違いによる結果として表れていることである。したがって格差や差別解消が反人種差別という極めて政治的な性格を帯びていることである。また同じ人種や移民の中での差別(例えば女性差別など)の解消が強く訴えられた点も特徴的だった。
 日本でも大なり小なり外国人差別の問題は存在するが、諸外国ほど政治・社会問題化していない。しかし我が国でも今後、ハイスピードでの少子高齢化や国際化が進展する中で、いずれはスウェーデンの報告にもあったように労働力の確保から外国人労働者問題は大きな焦点となることは確かであり、連合としてもこうした課題への積極的取り組みが求められる。
 また、ワークショップの中で参加者から日本での部落差別の実態や差別撤廃への連合の取り組み、慰安婦問題などについて質問がだされた。
 ワークショップのレポート及び検討した内容は、7月の1CFTU運営委員会と労働組合権委員会および11月の執行委員会に提出される。なお、ダーバンの国連世界会議に対してはICFTUとしてまとまって参加し、対応することが決まり、多くの加盟組織が参加するよう要請がなされた。なおICFTUのチームとして連合から2名が参加する。