米国の雇用平等委員会(EEOC)のとりくみ
雇用差別撤廃にとりくむ独立政府機関

 昨年9月、部落解放中央共闘会議として、アメリカの差別撤廃・人権運動に学ぶ視察交流団を派遣した。そして「部落解放共闘情報bP51」に全体的な報告記事を掲載し、AFL−CIOとの交流内容も詳しく報告した。今回は雇用平等委員会(EEOC)の活動を紹介したい。

 EEOCは連邦政府の独立機関で、連邦の雇用差別に関する法律を執行している。その法律とは、1964年に制定された公民権法の中の「タイトル7」である。それは、民族、肌の色、出生地、性別、宗教の雇用差別を禁止している。またその後、雇用における年齢差別、障害者差別を禁止する法律もつくられ、それも管轄している。
 EEOCは、公民権法が制定された翌年に設立され、本部はワシントンにある。全米50か所に事務所があり、職員は約3000名である。私たちが今回訪問したニューヨーク地方事務所(支部)の管轄は、ニューヨーク州のみならず、コネチカット州、ロードアイランド州、マサチューセッツ州、メイン州、そして、プエルトリコとバージンアイランドを含む広範なものだった。
 当日は、地方事務所の所長、弁護士、法律担当マネージャー、調査官の4人から説明を受けたが、4人とも有色人種で2人が女性だった。

   申し立てにどう対応するのか
 EEOCニューヨーク地方事務所には、年間約5000件の雇用差別の苦情が寄せられる。一番多いのは民族の違いによる差別、それから性的差別、近年増えているのは障害者差別である。苦情は、郵送、電話、それから直接オフィスを訪れる形で受け取る。
 苦情の申し立てに直接対応するのは調査官で、今回話をしてくれた調査官は日系の女性だった。彼女の所属する部署は、5名の調査官、その上に1人の指揮官、その上に法律関係のマネージャーがいる。そして、個々の調査官は、一度に25から30の事件を担当している。
 まず、苦情を申し立てた人に面接するか、または電話で話を聞く。そしてその結果、差別があったと思われる場合には、正式な書面にする。そして、その書面を雇用主に送り、調査を開始することを通知する。書面を受け取った雇用主は10日以内に返答しなくてはいけない。そして、雇用主側の主張を聞く。それから、会社側に証人の名前、上司の名前、本人の成績、給料の記録等の情報を求める。これも10日以内に返答がない場合、返答が法律上の義務であることを知らせる。また、会社に出向いて情報収集することもある。会社の履歴を調べ、会社の幹部従業員にインタビューをし、証拠を集めることもできる。
 そして、集めた情報を分析し、それを弁護士にまわし判断をする。調査官が差別があったと判断しても、弁護士が情報が不充分だと言えば、再調査をすることもある。
苦情のケースが法律違反でない場合、あるいは訴訟を起してもメリットがないと判断した場合は、これを却下する。そして、却下した件について、もし当事者が訴訟を起す気があれば可能だと言うことを当事者に知らせる書面を送る。
 また、そのケースが違法であるとわかると、どこが違法かをつきとめ、この件の解決をはかるため調停の書面を送る。時には、両者を召喚して調停の場を設けることもある。
この場合、EEOCと全ての当事者が会い、示談を目指す。必ず全ての当事者が話し合い、最終的には公式な書面にし、当事者全員による著名が行われる。

   示談が成立しない場合は訴訟に
 示談で解決するよう努力するが、それが不可能だった場合、また、被害者が著しく傷つけられたと感じている場合には、個人的に訴訟を起す権利がある。訴訟を起す前にEEOCとして、全力を尽くして解決に努めるが、これは行政的な決定・判断であり法的強制力はない。したがって、法的強制力を持たなければ解決しないと判断した場合には、訴訟になる。
 訴訟になると、通常は外部から弁護士をやとって裁判にのぞむ。当時者には、当方では解決することはできなかったが、ケースは違法であるので相手方に訴訟を起す権利があるという書面を送る。
 EEOCとして訴訟をおこすケースもあるが、示談に失敗したケース全てに責任を持って訴訟をおこすわけではない。数人の人が同じ会社で同じ理由によって差別を訴えている場合、社会的インパクトが強い場合などは、EEOCは責任をもって訴訟をおこす。
 最近EEOCとして訴訟をおこした例としては、差別を訴えたために、降格されたり、首にされたり、嫌がらせをされたケースがある。

    罰則と教育プログラム
 訴訟で差別があり法律に違反したことが確認されると、罰則が適用される。そして、差別が繰り返されないよう改善を約束させられる。
また、1991年に連邦議会で成立した法律によって、慰謝料も認められるようになった。以前は例えば解雇された場合、その時まで雇われていたと仮定して、その期間の給料分だけしか戻らなかったが、精神的なダメージに関しても慰謝料が払われるようになった。
罰金は会社の従業員数、訴える側の人数等によってケースバイケースで、場合によっては億を越すこともある。そして、ただお金を払うだけではなく、必ず会社の方針を変え、社員にその新しい方針を教える為の教育プログラムを作らなければならない。そして、そのような差別を繰り返さないことを契約書に書かなければならない。
通常この契約書には、将来的にどのような事をするかが書き込まれる。例えば女性だとか黒人ということで人を解雇した場合、必ずこのような事は繰り返さず将来同じ人数の女性や黒人を雇うという事を書く。必ず教育プログラムを、1年に1回、むこう3年間実施することなども書き込む。
その契約が守られているかどうか、EEOCでは時々監視としてモニターをする。そしてこれが道理的な説明無しに行われてなかった場合、裁判所に持っていく。この場合、通常罰金という形がとられる。

   ニューヨーク市人権委員会との関係
 ニューヨーク市人権委員会においても雇用差別をふくめて対応しているが、EEOCとの関係はどう整理されているのかを聞いた。
 EEOCは連邦政府の独立機関であり、連邦の法律に基づいて法を執行している。アメリカでは、市や州も独自の法律を作る事が可能で、ニューヨーク市のほうが早く差別禁止の法律をつくっている。そしてニューヨーク市の人権委員会は、EEOCよりも10年早く設立され、次にニューヨーク州の人権委員会が設立され、最後に連邦のEEOCが設立された。そして、三者は互いに協力しあっている。
 人によっては3カ所に苦情を持っていく場合がある。そうすると以前はそれぞれが独自に調査を行っていた。それは無駄なので、今はどこかがすでに調査していればその証拠を受け付けるようになった。そして調査した内容によって、その調査費用の一部を支払うことにしている。

    地域団体と連携した活動
 雇用差別を訴える権利やEEOCの活動について周知したり、多くの人々がこの制度を活用しやすくするために、どのような努力がなされているかを聞いた。
 そのために、アウトリーチプログラムという活動が3、4年前から活発に取り組まれている。
 EEOCは、人権問題など様々な活動をしている地域のグループとも密接に連携している。これらの地域のグループがそのような苦情を受け取ると、それがEEOCに送られてきて、前述の通常の手続きに入る。また、苦情申し立ての方法は、遠くに住んでいる人の場合、手紙でも電話でも受け付けている。
 さらに、このプログラムの一環として、EEOCは市のダウンタウンだけではなく、他の地域にも出向き、そこの地域の団体などと協力して図書館などで紹介・説明会をおこなっている。特に移民の多い地域に行って、不法労働者、不法移民にも、もし差別にあったらきちんと訴訟をおこす権利があるということを訴えている。そして、申し立てをしても他の局には知らせないので、不法移民であることを気にしなくていいということも伝えている。このプログラムによって、以前はEEOCの活動を知らなかった人々にも浸透してきたということである。
経営者を教育していくことも大切で、大きな会社の経営者を招待して1日から3日間かけて教育プログラムを実施している。
 最後に、労働組合との関係も聞いた。組合から会社に対する苦情申し立てがなされる場合もある。時には労働組合に対して苦情が寄せられる事があるので、訴訟をおこす事もあるという。