差別撤廃の取り組みを推進するAFL−CIO本部
アメリカ労働総同盟産業別会議との交流報告

 AFL−CIOは、アメリカ労働運動のナショナルセンターであり、本部ビルはホワイトハウスのすぐ北側にある。スタッフは約500名で、そのうち本部ビルでは350名が働いている。その本部ビルの会議室で、AFL−CIOのジョン・スウィニー会長の補佐をしているビル・フレッチャーさんと国際局アジア担当のフィル・フィッシュマンさんから話を聞いた。
 AFL−CIOは、5年前の会長選挙でスウィニー会長の体制になってから、組織拡大に重点を置き大きく路線転換し、差別問題にも力を入れている。その内容がどのようなものなのかを聞いた。

    ビル・フレッチャーさんの話
 労働組合が人種問題・民族問題・性差別などの問題に対応するときに、歴史的に3つの傾向がある。
 1つめは、労働組合のメンバーシップを制限し、労働組合の役割にも制限を加えるという"排除"の傾向。2つめは、誰が組合に参加するかということに対して、より広くオープンな立場をとるもので、"排除"に対する"包括"の傾向。3つめは、経済的問題に焦点を置き、差別問題を"無視"する傾向である。
 アメリカの労働運動の歴史には、労働者が団結して差別に対し闘ったすばらしい例もあれば、人種差別に積極的に参加したという悪い例もある。しかし今日、AFL−CIOの新しい会長ジョン・スウィニーをはじめとする指導者の下で、誰が労働組合に参加するかということに対し、より広いオープンな立場をとるようになった。それが、非常に重要な転換点となった。
 そして、今AFL−CIOは地域団体とも手を結ぶようになり、社会的な不公正・不正義をなくすためのパートナーとして連携するようになってきた。
 また、マイノリティー(少数者)並びに女性の声を代弁するために法律的に働きかけ、平等を求める取り組みをおこなっている。その1つの例は、アファーマティブ・アクションを擁護する闘いである。政治的な右翼の人々は、様々なアファーマティブ・アクションを「白人に対する差別だ」と攻撃しており、最近もフロリダ州でアファーマティブ・アクションを止めさせようとする試みがあった。これに対してAFL−CIOは、大きな運動として地域社会に働きかけデモを行なったりして、そのような試みを阻止した。
 労働組合には、経済的な問題に対してだけでも非常に様々な意見や考え方がある。加えて、長年にわたり労働運動の指導者層が、それぞれの組織の中の人種問題や差別問題を無視してきた。そのため、多くのメンバーはそれらの諸問題にどのように対処すべきかが分からない。ゆえにAFL−CIOが行なおうとしていることの1つは、教育プログラムの開発である。それは、人種・民族・性別などによる差別を独立して扱う部門を作ったり、現存する教育プログラムにそれらの情報を加えたものだ。
 しかし、AFL−CIOの組織の性質上、我々のメンバーである団体に、これらの教育プログラムの使用を強制することはできない。したがって、労働組合と労働組合のメンバーが、人種差別や性差別あるいは反移民主義などに対して、イデオロギー的にも闘っていくことが大切だと考えている。
 今年の2月に、AFL−CIOは、不法滞在の移民に対する恩赦と、その人たちの労働組合を立ち上げる立場を強く表明した。これは非常に物議をかもし出し、多くの人々は社会的・経済的な不正を是正する政策として理解を示した。しかし、反対に不快感を示した人たちもいた。この人々の反応は、教育プログラムを用いて適切な教育をおこなってこなかった、そして誰が本当の敵なのかということを教えず、その替わりに沈黙し後進的な考えを消極的に受け入れてしまった、といったこれまでの運動のツケである。

(質問)宗教団体との関係はどうなっているか。
(答)AFL−CIOでは、様々な宗教団体に手を差し伸べて友好関係を築こうとしている。ここ2・3年は、労働組合の指導者が様々な宗教団体を訪れて労働者に影響を与えるような問題について話し合うというプログラムが使用されている。
(質問)公民権局のようなセクションは各産業別組織や地方組織にあるのか。各労組の自治権がある中で、教育プログラムを推進するためにナショナルセンターの指導性をどう発揮するのか。
(答)AFL−CIOでは人種問題、民族差別、性差別を主に扱う部門がある。そして、たいていの労働組合にはそれに相当するような仕事をおこなう部署あるいは担当者がいる。しかし、それらの部門・部局は大変に弱いのが現状である。その理由は力のバランス、つまり言い換えれば、それらの問題を扱う部署が充分な権威を持つことを確実にさせる充分なプレッシャー(圧力)がないことである。実際に強い部署を確立し行動していくためには、指導者達の強い支援が必要だ。
 AFL−CIOの指導性に関する質問についてだが、我々は全国単産や各組合の指導者達にそのプログラムへの参加を強制する事はできない。しかし、なにかさしせまった問題がある場合には、指導者達がなんらかの形で呼びかけをおこない、必要なプログラムに参加を促すという方法もある。
基本的には、底辺の人々から要求・圧力がない限り、正しい方向へ早く物事が動くということはない。指導者によっては、問題が存在しないかのように無視を決め込む事のほうが、強い意志をもって問題に取り組む事よりはずっと簡単な事だから。
(質問)国や州への要求の柱は?
(答)行政側に関しては、様々な異なったレベルで要求している。国会に働きかけて、法律的な提案もしてきた。しかし、差別問題を是正する為の要求がどれだけ重要かという事に関して、我々の内部で意見の違いがある。例えば、人々の中には我々がそういった法的な提案をする際に、差別問題ではなく経済問題に焦点を絞るべきだという主張もある。しかし、私も含め、まず人種問題に取り組むのが大切であり、人種問題の解決無しには本当に労働組合の団結と統一した運動を達成するのは難しいと考える人間もいる。
 アファーマティブ・アクションについて、やめるべきであると右翼は主張している。それは、組織的人種的差別というのは存在していない、あるのは個人間だけだという主張である。しかし我々は、様々なレベルで行政はアファーマティブ・アクションを開発し、取り入れていく義務があると考える。というのは、人種差別、性差別、民族差別というのは現在も存在し続けている問題で、個人間の好き嫌いの問題ではないからだ。
(質問)公民権局のスタッフと年間予算を教えて下さい。
(答)公民権局のスタッフは、プログラムに3名、秘書が2名。それから、1996年には勤労女性部というのができて大変活発に活動しており、3人のプログラムスタッフと2人の秘書がいる。
国連では2001年の8月に人種差別撤廃の世界会議会議を開く予定であり、我々は来年が人種問題に対する我々の運動を築く重要な時期と考えている。我々はその会議に代表者を送る予定であり、それを機会に運動を盛り上げ、全国単産のレベルにおいて、人種差別や男性優位主義についてもっと話し合っていけるようにしたい。国連レベルでもそのような声が大きくなることを望んでいる。

    フィル・フィッシュマンさんの話
 アメリカ合衆国は日本よりもはるかに、民族的にも、文化的にも、人種的にも多様性に富んだ国家であり、その為、人種差別問題というのはアメリカにおいては大変重要な問題である。例えば、カリフォルニア州においては非白人が多数派となり、この傾向は広がっている。
 ビル・フレッチャーはジョン・スイニー会長の補佐であり、会長室で働いている。そして彼の職務責任は、AFL−CIOとパートナーの団体が人種差別に対してどのように取り組むかをコーディネートすることである。2、3年程前まではそれらの職務をおこなう人間は配置されていなかった。公民権・人権局そのものはAFL−CIOの中では30年程の歴史がある。勤労女性部は1995年にスイニー会長が選出された時に設立された。  
 また、AFL−CIOを支援し提携している団体として、例えばAPALA(アジア太平洋系労働連盟)という組織がある。この団体には独自の役員がおり、会員の大半はアジア系アメリカ人の労働組合員である。APALAの目的は、特にアジア系労働組合員が直面している問題について焦点をしぼり取り組むこと。そしてもう一つの活動内容は、アメリカの労働組合が行っている活動をアジア系の労働組合に応用すること。また、同様の事がヒスパニックの労働組合であるLACLAA(ラテン系アメリカ人労働向上協議会)という団体でも行われている。またアフリカ系アメリカ人の労働組合団体であるCBTU(黒人労働組合活動家連合)、また、女性の労働組合の為には女性労働連合であるCLUW(全米勤労女性協会)という団体でも同様の事が行われている。また、同様の組織が退職者並びに年輩の労働者にも存在している。ビル・フレッチャーのいる会長の事務所及び公民権・人権局、女性の勤労局、そしてこれらの支援組織のネットワークの中で人種問題などを克服しようとしている。
 1960年代初期のAFL−CIOは、現在の組合員にどのようなサービスを供給するかが最優先事項であった。しかし、この時期は労働組合運動が縮小し、組合員の数も減少し続けた。その為、現在のスイニー会長が選出された時の優先事項というのは、この労働組合運動を再構築し拡大する事であった。しかし、アメリカは民族的にも人種的にも多様性に富んだ国である為に、我々がその目的を達成するために、そのことにより敏感になることが要求された。また、特に宗教団体と提携する事、また人権運動のグループ、公民権運動のグループ、女性問題のグループとの共闘を確立する必要があった。
 また、労働組合が他の団体から支援を得る為には、彼らがどのような問題を抱えているか、またどのような問題に関心があるかについて興味を持つ必要がある。そうしなければ彼らも私達の抱えている問題や関心ある問題に耳を傾けてはくれない。
 我々は、我々の組織の中に反対する者がいるような政策を実際に移民問題で打ち出した。それは、我々が本当にラテンアメリカ系の人々から支援を得たいと願うならば、彼らの抱えている移民問題に対して我々が理解を示して実際に行動をとる心がまえがあるという事を示す必要があるからである。それが敏感であるということで私が意味した事である。
(この報告は、交流内容をもとに事務局で編集したものです)